かめのあきのゲームブログ

好きなタイトルを中心に、レビューや思い出を画像多めで書き綴ります。

「夏ゆめ彼方」父と夢を失くした天才少年が、引っ越し先の田舎で一人の神様と出会い・・・?

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フリーゲームサウンドノベル「夏ゆめ彼方」の感想記事です!

www.freem.ne.jp

 

プロ棋士である父を心臓病で失くし、それまで打ち込んでいた将棋を胸の内にしまい込んで過ごしていた、小学五年生の少年「桂一」が、引っ越し先の神社で自らを神と名乗る(しかも将棋が超強い)謎の少女「杏(あんず)」と出会い、再び将棋にのめり込んでゆく。

 

読了時間は約四時間。

爽やかな夏の描写と、主人公のリアリティある「天才が故の自尊心」と「欠乏感」、そして再起のストーリーが秀逸で、最後までぐいぐいと引き込まれました。

 

 

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父を失くし、東京から母の故郷に引っ越してきた桂一は、将棋を指す事もためらわれ、

ブラコンの妹にからかわれる毎日を送ります。

 

 

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そんなある日、何気なく訪れた神社の裏山にて、自らを神と名乗る少女「杏」と出会います。

どこからか出現させた将棋盤と駒を使って、彼女と将棋を指す事に。

 

しかし、これが強いのなんの。まったく歯が立たず、なにくそと再び闘志を燃やし、毎日のように彼女と将棋に明け暮れるようになった桂一。

 

 

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時には、桂一をヨソモノだとからかっていたクラスメイトの「大悟」と、その取り巻き達に後をつけられ、一致団結して杏と缶蹴りで対決。

それを境に友情が芽生えていく・・・と言った、小学生らしさに溢れた出来事も。

 

暇を持て余した神様は、あらゆる遊び事に通じており、缶蹴りも超強かった・・・

 

 

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その後も変わらず杏との将棋に明け暮れ、将棋を研究し続ける桂一。

しかし、何故か次第に、杏の事が頭から薄れて消えかかっていきそうになります。

 

本来神様なんて、いつまでも見続けられる存在ではないもの。

それでも桂一は、机に自ら頭を打ち付けて踏ん張り、杏に会いに行きます。

 

 

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自分が勝ったら、いつまでも杏の事が記憶から消えないようにしてもらう。

負けたら、井戸に飛び込んで死ぬ。(半分勢いで言った事だけど)

 

そんな約束のもと開始した最後の対局は、彼女の超人的な腕前と計算を持ってして、

壮絶な「引き分け」。・・・やはり彼女には、最後まで勝てなかった。

 

 

しかし、この夏の体験から、再び将棋に対する熱い想いを取り戻し、父が果たせなかったプロ棋士「名人」段位を目指す事を決意するのでした。

 

ここで終わりでも物語は成立する所ですが、桂一の物語はまだまだ続きます。

 

 

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それから時は流れて十七年後、なんと桂一は名人段位どころかプロ棋士になる事もかなわず、

堕落した姿になっていました。

 

あんなに自分を慕ってくれた妹でさえ、自分を蔑む有り様・・・

 

 

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またある日、気分転換にと向かった本屋への道中で、かつての友人である大悟とすれ違います。

 

妹の夫となった彼は、嫌味や憎まれ口を叩くも、才能を信じて応援していた事も伝え、努力を誇って胸を張っても良いのだと、激励の言葉を告げるのでした。

 

 

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居ても立ってもいられなくなった桂一は、無我夢中に夜道を走り、あの思い出の裏山にて杏の名前を叫びます。十七年ぶりの再会。

 

全てを察した彼女は、「一局どうじゃ?」と、桂一を再び将棋に誘います。

 

 

あれだけ忌み嫌った将棋なのに、杏と語り合いながら指す将棋はやはり楽しかった。

極上の勝負の末、勝利を収めたのは桂一でした。

 

将棋に打ち込んだ十数年は、決して全てが無駄だったわけじゃない。

自分で自分の人生を肯定し、彼は新たに未来を見据えるのでした。

 

 

それから更に、桂一と杏のちょっとしたその後の結末もダイジェストで描かれ、物語開始時点から数えて実に三十年もの物語が語られる事になります。

 

 

いや、ここまでくるとなんかもう、創作の中でありながらも、一人の人生を本当に長きに渡って応援して、見守らせてもらったような気持ちになりますね。

 

人よりも才に秀でているからこその自尊心の高さとか、それが原因で周囲の人間をちょっと見下してしまう気持ち、成し遂げて当たり前と思っていた夢が、慢心や周りからのプレッシャーによって次第に形を失くしていく描写等にリアリティがあって、

「こんなに価値の無い自分でも、頭と身体は生を繋いでしまうのだ」と絶望の淵にいる主人公の心理描写には、こちらの心臓が押し潰されてしまいそうなほどでした。

 

それ故に、最後の最後になってようやく報われる桂一の姿、そして最後まで消えない絆を持って見守ってくれていた杏の姿には、本当に救われた気持ちになりました。

 

 

こうしてレビューにまとめると、「友情」「努力」そして「挫折」からの「再起」「奮起」と、実に王道を行くストーリーだったわけですが、

「これで良いんだよ!こういうのを求めていたんだよ!」と思わせてくれる作品でした。

 

物語の大筋を語ってしまいましたが、巧みな心理描写と魅力あるキャラクター、そして分かりやすい展開等から、この手の文章ゲームに馴染みの無い方にもオススメできる、懐の深い作品だと思いました。

 

小学生の頃のような暑さと熱さを味わいたい方、そして挫折を乗り越えて経路を変えながらも夢を叶える、王道な感動話を求める方は、是非いかかでしょうか。

 

 

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ちなみにこのゲーム、物語の折り返し地点には一つだけ分岐があり、選択によっては主人公と同じく転校生でからかいの的になっていた「高橋さん」を助けて、彼女とイチャラブする真っ当なギャルゲー的ストーリーにも変貌します。

 

ちょっと助けてあげただけなのに、次の日からしきりに声をかけて付き纏ってきて、お手製のクッキーをくれたり、感想を聞かれて素直に「まずい」と言ったら泣きわめいたり、

 

そうかと思えば勝手に家まで付いて来て、夢を語りあったり、イジメを克服できたお礼にとほっぺにチューしてくれたりする、

典型的なツンデレ「高橋歌音(かのん)」ちゃんに、これでもかと悶える物語です。

 

 

と言いつつ、こちらはこちらで二人共の「夢」の行く末を、本筋とはまた違った形で描かれていたりするので、単純なIFストーリーに留まらない、補完的な役割もあったりするのかなと思ったりもしました。

 

てか高橋さんめっちゃかわいい。杏って誰だっけ?(おい)