「かげろうに咲く花」10分間でサクッと恐怖と絶望を味わえる、兄妹の絆を描いたプチノベル
フリーゲームのサウンドノベル、「かげろうに咲く花」の感想記事です!
以前にレビューを書いた「夏ゆめ彼方」の作者さんによる、短編形式の次回作です。
父親との死別を機に、大好きな将棋を指せなくなっていた少年が、一人の神様と出会って再起していく渾身の物語「夏ゆめ彼方」が好きだったので、
同じ作者さんが続けて気分転換にと作った本作も、期待してプレイさせて頂きました。
プレイ時間は約10分間と、非常に短く纏められた作品でした。
(以下、完全ネタバレでお送りしますので、一応ご注意を!)
物語は、主人公である「保坂遼平」の部屋に、妹の「陽菜(ひな)」がいきなり現れ、慌てふためく所から始まります。
なにやら主人公の独白を見るに、この妹「陽菜」は、十数年前の夏に二人で外出した際に交通事故に遭い、帰らぬ人となった模様。
それが突然、何事もなく当時のままの姿で帰って来たと。
・・・ほうほう、妹物と幽霊物のダブルパンチですね。(意味不明)
タイトル画面の音楽がなにやら不穏だった事もあって、この時点でなんとなくイヤ~な結末になる予感はしていましたが、
しばらくは自室で一緒にゲームをやったりと、ほのぼのとした展開が続きます。
一方、あまり自宅に帰ってくる事も、会話量も少ない遼平の父親には、陽菜の声や姿は認識できない様子。
・・・まぁ、幽霊だからね。
母親は既に自分達が小学生の頃に病死しており、続けざまに事故によって陽菜まで失くした事で、遼平は自堕落な人生を歩む事になり、父親との仲も当然上手くいっていないらしい。
・・・重い、重いよ・・・
これは、想像してる以上にショッキングなやつ?
あの時の事故を思い出すのが嫌だからと、外に出る事を避け続けていた遼平ですが、陽菜の熱い要望によって、二人でお出掛け(遼平いわく”デート”)をする事に。
周りからはヒソヒソと不審がられている事から、どうやら父親だけでなく、遼平以外の全ての人間には陽菜を認識できていない様子。
それでも遼平は気にせず、最愛の妹との、久方ぶりの外出を楽しみます。
カフェ、映画館と周った後、最後に二人だけが知っている絶景ポイントへ。
「やっぱり、シメはここだよな。」
二人で景色を堪能します。
日が落ちるまで町を眺めた後、帰ろうとした瞬間、陽菜が木の根本に足を引っかけ、転倒しそうに。
反射的に、全力で受け止める遼平。
大げさな反応だったと自分でもわかっているものの、なにより妹を心配して声を掛けます。
「・・・帰ろう。」
・・・・・・・・
・・・ハッキリ言おう、私はビビリである。
この瞬間だけで、めっちゃビビッた。
いや、もうほんと、こういう精神的にゾワッとくる怖さって、本当苦手なんだわ。
でも、10分で終わる物語なら、このへんが折り返し地点なわけだし、
ここまで来たら最後まで見届けるしかないよね・・・
次の日、父親が大急ぎで部屋に入ってくると、「陽菜の意識が戻った」と告げます。
・・・??
なるほど、陽菜は交通事故に遭った事でいなくなったと描写されていただけで、
死んだと明言されていたわけではありませんでした。
どうやら十数年の間”植物状態”となっていて、それが今しがた、意識を取り戻したようです。
この辺りの、読み手の思い込みを利用した”叙述トリック”による話作りは、素直に上手いなと思いました。
あぁ・・・でも、バッドエンドフラグしか立ってないんだよなぁ・・・
病室に入ると、陽菜の居たはずのベッドに、それは醜い女性の姿がありました。
「あれが・・・陽菜・・・??」
十数年ぶりに目を覚ました最愛の妹は、頬は痩せこけ、肌はしわくちゃで、
かつての面影はどこにも無くなっていたのです。
懸命に話しかけるも反応が無く、ようやく反応したかと思えば、
首だけこちらを振り向いて、恐ろしい形相で見つめてくる”その女”。
「こんなの、俺の陽菜じゃない・・・!!」
遼平は現実を受け入れられず、病院の外へと駆け出します。
無我夢中で路上を駆けると、”本物の陽菜”が現れて並走します。
俺たちは、これから幸せになるんだ。今まで不幸だった分も含めて。
・・・するとふいに、陽菜が車道へと身を投げ出します。
同時に突っ込んでくる、大きなトラック。
--今度こそ、俺が陽菜を守るんだ!!
とんでもない衝撃が身体に走るも、その腕にはしっかりと、妹を抱き包んでいます。
やった。やったんだ。
俺は陽菜を、守れたんだ・・・
「ずっと一緒にいようね?お兄ちゃん。」
・・・・・・・・
うん、まぁ・・・なんというか。
物語の最初の段階で、ホラーチックな結末になるのはわかっていた事ですし、
大好きな妹との”夢のような再会”という、天にも昇るような冒頭部分から始まって、それが幻覚だと自覚しつつも、帰って来た妹と純粋に触れ合う兄の”壊れた精神模様”、
そして”予想外な真実”(妹は一応まだ生きていた事)の発覚を経て、「やっぱりか・・・」という悲劇的なエンディングを迎えるまでを、
読了約10分間という少ない文章量の中に書き切り、無駄なく纏められていたと思います。
私にはこういう物語を考え付く才能は無いですし、そこまで極端に苦手な部類の話という訳でも無いのですが、
やっぱり・・・物語を読むなら、最後はハッピーエンドが良いなぁ、私は。
前作「夏ゆめ彼方」が、少年の夢物語と一人の神様との儚い交流を数十年に渡って描いた、非常に読後感と満足感に優れた作品だったので、
その落差も含めて結構な「ズーーン・・・」を味わいました。
10分間という尺を考えたら、上等な質の「ズーーン・・・」だったと思います。(語彙力)
ちなみにこの後、タイトル画面に戻ると・・・
や、やめようぜ、こういうの・・・
(作者様には、存分に敬意を払っております。)
※↓前作「夏ゆめ彼方」のレビューはこちら。同じくネタバレ全開です。